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福岡高等裁判所宮崎支部 平成6年(行コ)1号 判決

控訴人

株式会社ガイナックス

右代表者代表取締役

澤村武伺

右訴訟代理人弁護士

山城昌巳

中尾昭

被控訴人

宮崎県知事

松形祐尭

右訴訟代理人弁護士

日野直彦

右指定代理人

新垣隆正

外五名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、左記フロッピーディスクについて、平成四年七月一七日、宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例(昭和五二年宮崎県条例第二七号)第一三条一項に基づいて有害図書類と指定した処分は、これを取り消す。

題名 「電脳学園シナリオ1」

バージョン2・0 上巻・下巻

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  本件事案の概要並びに当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」並びに「第三 当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏一〇行目の「提起した」の次に「(なお、本件指定処分は、本件フロッピーディスクを本件条例一三条一項にいう有害図書類に指定するものであり、それは不特定多数の者を対象とした法の具体的執行にほかならないが、その指定がなされると、同条三項により、図書類の販売又は貸付けを業とする者は、宮崎県内において、青少年に対する本件フロッピーディスクの販売、頒布、貸付け等をすることが禁止され、また、同条四項により、業者は、本件フロッピーディスクを陳列するときは、これを屋内の監視できる場所に置き、かつ、他の図書類と区分して、青少年の目に触れないような措置を講じ、所定の標識を掲示することを義務付けられるので、本件指定処分は、本件フロッピーディスクの製造販売業者であり、かつ、宮崎県内において、自ら、また、他の業者を通じて、本件フロッピーディスクを販売している控訴人の権利義務に直接関係するものであるから、行政事件訴訟法三条二項にいういわゆる行政処分にあたり、抗告訴訟の対象となると解するのが相当である。)」を加える。

二  原判決五枚目裏三行目の「禁止することをいうが」を「禁止することをいうとされているが、検閲を発表行為の事前抑制ととらえるのは、歴史的及び経験的事由によるものであり、現段階では、そのように狭くとらえることは妥当でなく、事前の抑制か事後の抑制かにとらわれることなく、発表行為に対する規制の実体を評価して検閲に当たるか否かを判断すべきである。また」に改める。

三  原判決六枚目裏三行目の「ところが」を「しかも、本件フロッピーディスクは、青少年に向けられた表現行為ではなく、成人した若者を対象としたものである。すなわち、本件フロッピーディスクは、五万ないし六万円程度の一般ゲーム用コンピューターでは使用できない製品であり、本件フロッピーディスクがセットできるコンピューターの市販価格は当時二〇万円以上していたから、本件フロッピーディスクがセットできるコンピューターを購入したうえ本件フロッピーディスクを購入できる年齢層は二〇才から三〇才位であり、青少年には経済的に購入できるようなものではない。控訴人もかかる市場の実態を踏まえて、大学を卒業した二〇才から三〇才位の若者を対象として本件フロッピーディスクを製作したのであり、本件指定処分は、かかる成人を対象とした本件フロッピーディスクを規制し、控訴人のみならず、制作者、販売業者、購入者の表現の自由を制約するものであるから、当然のことながら前記の厳格な要件のもとにおいてのみ許されるというべきである。かような観点からすると」に改める。

四  原判決六枚目裏七行目の「いえない。」の次に「否、むしろ、青少年の表現の自由を制限してまで或る種の情報から青少年を隔離する必要があるのであれば、青少年が業者以外の者から有害図書類を入手することをも規制しなければ青少年保護の実効性はなく、これを等閑して、青少年の健全な育成の目的との大義名分のもとに、有害図書類の指定を認める本件条例の規定は、極めて恣意的であり、到底合理性があるとはいえない。」を加える。

五  原判決八枚目表三行目の末尾に「なお、被控訴人は、審議会が定めた具体的な認定基準が存在することをもって、制約される行為の内容は明確であると主張しているが、右基準はあくまでも認定の基準であり、法規範性はないから、右基準の存在をもって内容が明確であるということはできない。」を加える。

六  原判決九枚目裏一〇行目の次に、改行して、

「(五) 児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号)違反

本件制度は、平成六年五月一六日に公布され、同月二二日発効の「児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号)」(以下、単に「条約」という。)から許されないものである。すなわち、条約は、一八歳未満の児童を、単なる保護の対象として捉えるものではなく、権利を享有する主体であり、かつ、権利を行使する主体として把握することを基本とし、一三条一項において、児童の表現の自由についての権利を保障すると同時に、この権利には、あらゆる種類の情報や考え方を単に「伝える自由」のみならず、これらを「求める自由」及び「受ける自由」、すなわち、知る権利をも含むとしている。これは、児童について保障する表現の自由は、成人に保障されている表現の自由と質的に全く同じのであることを謳ったものであり、いわゆる有害情報であっても、その規制に先立ち、児童に十分な情報又は資料を提供し、児童が主体的に批判の目を養い、自らの力で有害情報による被害から守ることを期待しているのである。そして、一七条は、特に有害情報について、締約国は「(e) 第一三条及び次条の規定に留意して、児童の福祉に有害な情報及び資料から児童を保護するための適当な指針を発展させることを奨励する。」とし、国に対し、適当な指針を発展させることを奨励することのみを認めるにとどめ、国が児童の有する表現の自由について制約することを許容していないのである。また、一八条一項は、「父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達について第一義的な責任を有する。」とし、国のなすべき措置として、「締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束」すること(三条二項)、「締約国はこの条約に定める権利を保障し及び促進するため、父母及び法定保護者が児童の養育についての責任を遂行するに当たりこれらの者に対する適当な援助を与える」(一八条二項)こととして、国が児童の養育について第一義的責任を負う父母又は法定保護者に対し、その責任に干渉したり容喙したりすることは許されないとしているので、国や地方公共団体が青少年の保護の名目で情報及び資料を受ける権利について制限することを禁止している。したがって、青少年に有害な図書類として指定すること及び指定された有害図書類の販売等を禁止することは、右条約に違反する。また、一三条二項は、児童の表現の自由に対する制限は、法律をもって定め、かつ、その制限は、(a) 他の者の権利又は信用の尊重、(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護の目的のために必要とされるものに限定している。したがって、本件のように条例をもって制限を課することは許されず、また、図書類の内容が著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれがあるというような理由は、右の制限できる事由に当たらないから、本件条例は右条約に違反し、許されない。」を加える。

七  原判決一二枚目裏一行目の「なされていない。」の次に「なお、本件フロッピーディスクの審議が十分なされなかったことは、次の点からも十分窺えるものである。すなわち、本件フロッピーディスクの審議がされたという被控訴人提出の平成四年六月一二日付及び同年七月一七日付各審議会議事録は、いずれも、(1) 出席者において議事録の記載内容を確認していないこと、(2)出席者の署名・捺印がなく、出席者が署名・捺印する欄すらないこと、(3) 記録責任者の氏名が明らかでないこと、(4) 作成者の署名・捺印がなく、不明であること、(5) 文書番号・分類記号がないこと、(6) 作成後の監督者又は担当者の署名・捺印がないこと、(7) 保管番号、保管者又は保管責任者の署名・捺印がないこと等、議事録としての最低要件並びに公文書としての形式に欠けていること、また、平成四年六月一二日付議事録の記載によると、同日の審議会には欠席した会長の大坪孝雄が審議の席上で発言したことになっていること、また、同年七月一七日の審議会において宮崎県警察本部防犯少年課作成の本件フロッピーディスクの解析写真集が提出されて審議されているが、同写真集は、文書の発送記号及び番号、分類記号、文書の日付、発信者名、宛名、標題、文書の種類等の記載並びに公印及び契印(発送文書と起案又は契印表の契印)がないものであり、かかる公文書としての形式さえ整っていないものを資料として審議していること等からすれば、本件フロッピーディスクについて十分な審議がなされたとは、到底いうことができない。」を加える。

八  原判決一四枚目表八行目の次に改行して、

「控訴人は、青少年が業者以外の者から有害図書類を入手することをも規制しなければ青少年保護の実効性はないのに、これを等閑して、有害図書類の指定を認める本件条例の規定は、極めて恣意的であり、合理性がない旨主張するが、有害図書類の指定は刑罰を伴うものであるから一定の限度が必要であること、青少年の保護ないし健全な育成は本来親権者が責任を持つべきものであり、かつ、親権者の意思を尊重すべきものであること、本件制度によって青少年の性的好奇心に乗じた安易な商業主義から青少年を保護することができること、本件制度によって有害図書から完全に青少年を隔離できないとしても十分に実効性はあること、表現の自由については必要以上に制約すべきではないこと等からすれば、本件条例の規定は十分な合理性がある。」を加える。

九  原判決一六枚目裏三行目の次に、改行して、

「(五) 条約違反の主張に対する反論

控訴人は、本件制度が条約に違反すると主張するが、条約一三条二項但書の「法律」には条例が当然含まれるものと解すべきであり、また、有害図書の指定は、青少年の健全な育成を目的とするものであるから、同項(b)にいう「公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」の目的に含まれるものというべきであるから、本件制度は条約に違反するものでもない。」を加える。

一〇  原判決一九枚目表九行目の次に、改行して、

「控訴人は、審議会議事録の形式について云々いうが、そもそも審議会は知事の諮問機関に過ぎず、条例も諮問ないしは答申の方法等について具体的な規定を定めておらず、議事録の作成も要求していないのであって、議事録に控訴人主張の作成者の署名・捺印等がないからといって、審議会の審議が十分になされなかったというのはあたらない。また、控訴人は、平成四年六月一二日の審議会に会長の大坪孝雄が欠席しているのに議事録では審議会の席上で会長の発言が記載されていることを採り上げて、審議会の審議について非難しているが、審議会に会長が欠席したときは、本件条例二六条により、会長が予め指名する委員(本件当時は小山副会長)が会長を代行することになっているので、議事録の記載上代行の発言を会長と表示したに過ぎないのであるから、控訴人の右主張は全くの誤解というほかない。また、控訴人は、解析写真集についても云々するが、右写真集は実際に宮崎県警察本部防犯少年課作成のものであり、審議の資料として適切なものであるから、控訴人の非難は全く理由がない。」を加える。

第三  争点に対する判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するものであり、その理由は、次のとおり、付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実及び理由「第四 争点に対する当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する。

一  原判決二〇枚目表九行目の「この点の立証はなされていない上、」を削除し、同一〇行目の「それは」から次行の「右事実の存在」までを「そのこと」に改める。

二  原判決二〇枚目裏八行目冒頭の「一般に」から二一枚目裏二行目末尾までを「表現の自由は、心のはたらきをもった人間としての存在に関わる本質的部分であるから、基本的人権として尊重されなければならないことは多言を要しないところであり、青少年についても、この自由は尊重すべきである。確かに、青少年は身体的・精神的に未成熟であり、提供される知識や情報を的確に選別して自らの人格形成に資するものを吸収していく能力を十分に有しているとはいえないから、偏った或いは正確性を欠いた興味本位の情報にさらされたときに、それをそのまま受け取るおそれはあるが、他方、青少年は身体的・精神的成長期にあり、その時期に青少年に対してさまざまな知識・情報に接する機会を保障することは、青少年が健全な精神を養い、責任ある思考・行動をとることができる成人に成長するために極めて重要であり、その機を失すると、最早精神的成長がはかれないことすらあり得るから、この自由は、青少年についても、成人の場合に劣らず尊重すべきである。殊に、本件条例一三条一項一号は、性に関するものであり、性の問題は、それを媒介として人間精神の啓蒙がはかられる面と性を侮辱し本能を享楽して人間精神を頽廃させる面との両面があり、成人にとっても重要な問題を含んでおり、しかも、右条例は猥せつにいたらない図書類に対する規制であるだけに、悪書と良書の選別の限界は極めて難しいものがあるから、単に性に関する知識・情報であるからといって、偏った道徳観念から、青少年の身体的・精神的未熟性を理由として、青少年についての規制を加えることは許されないというべきである。

しかし、前記のとおり、青少年が身体的・精神的に未成熟であることも確かなことであり、そうした観点から、青少年に対しては、成人とは異なった特別の法的保護をすることも必要であって、法が児童の酷使を禁止し(憲法二七条三項)、教育を受ける権利を保障し(同法二六条二項)、民法、刑法、少年法その他の諸法において、未成年者に対して特別の措置を講じているのも、身体的・精神的に未成熟な青少年の健全な発達を促すとともに、その発達を阻害する要因を排除する趣旨から出たものと解される。

そうすると、表現の自由の派生原理である知る権利についての青少年に対する保障も、青少年の特質から、その権利の重要性と保護・育成の必要性との調整の原理のもとに、成人とは異なる意味において、必要最小限度の制約を受けるものであり、その限度において公権力により規制することも許されると解するのが相当である。」に改める。

三  原判決二一枚目裏四行目の冒頭から二二枚目表一〇行目の末尾までを「本件制度は、不特定多数を対象とした営利行為を目的とする業者に対し、身体的・精神的に未成熟である青少年の健全な育成を阻害する図書類の販売等を規制し、これによって、青少年の健全な発達を促す社会的環境を整備する目的から出たものであり、その規制の内容は後記のとおり不明確とはいえず、規制対象も業者の青少年に対する販売等に限定して、青少年の親権者らの監護・教育の権利を侵害するものではなく、また、その規制の理由がなくなったときは、これを取り消す制度も規定している(本件条例二三条)のであるから、本件制度は、業者の営業の自由、表現の自由、親権者らの青少年に対する監護・教育の権利等を踏まえたうえで、青少年の知る権利と青少年の保護・育成とを調整した必要最小隈度の規制をする趣旨のものと解され、その運用において違憲、違法となることはあるにしても、本件制度そのものは、事前抑制禁止の原則に反する違憲なものということはできない。なお、控訴人は、本件フロッピーディスクは成人した若者を対象としたものであり、本件制度による規制は、控訴人及び成人の表現の自由を規制するものであり、合理性がない旨主張するが、本件制度が成人の表現の自由を規制するものでないことは明らかであり、また、控訴人の表現の自由が、青少年に対する表現の自由について説示した前記理由から、必要最小限度の制限を受けることは合理性のあるものというべきであり、控訴人の右主張は採用できない。また、控訴人は、青少年の表現の自由を制限してまで或る種の情報から青少年を隔離する必要があるのであれば、青少年が業者以外の者から有害図書類を入手することをも規制しなければ青少年保護の実効性はなく、これを等閑した本件条例の規定は極めて恣意的であり、到底合理性があるとはいえない旨主張するが、青少年の健全な育成についての社会環境の整備として、業者に対し規制をすることが必要最小限度の規制であるということができるから、控訴人の右主張も採用できない。」に改める。

四  原判決二二枚目裏四行目の「乙」から二四枚目表二行目末尾までを「青少年に有害な図書類との概念は、事柄の性質上、条理、社会通念、道義秩序といった補充的な評価基準によって、その内容、程度、限界等が画されるものであるから、ある程度の抽象的文言は避けられないこと、本件条例一三条一項は、右一号とともに、二号において、「著しく青少年に粗暴性若しくは残虐性を生ぜしめ、又は青少年の犯罪を誘発し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」を青少年に有害な図書類として規定し、また、同条二項の包括指定(みなし指定)の規定において、右一号の図書類のうち「全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態」(一号)、「性交又はこれに類する性行為」(二号)を揚げ、これを受けた規則三条が、右「全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態」の写真又は図画の内容を「ア 陰部の部位を誇示し、又は露出した姿態 イ 自慰の姿態 ウ 愛撫の姿態 エ 排泄の姿態 オ 緊縛の姿態」とし、右「性交又はこれに類する性行為」の写真又は図画の内容を「ア 男女の性交 イ 強姦その他の凌辱行為 ウ 同性間の性行為 エ 変態性欲に基づく性行為」と規定しているところからすれば、本件条例一三条一項一号の「著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」とは、具体的には右のような内容のもので、青少年に対し、性を侮辱し本能を享楽して人間精神を頽廃させる類の誤った性的感情を植えつけ、増長させるものを指すということは容易に解釈できるから、右条項が控訴人の主張するように不明確であるということはできない。

なお、同条項が右の内容のものであり、また、成立に争いのない乙第一号証の一及び二並びに弁論の全趣旨によれば、審議会は、本件条例の解釈基準となる内規(以下「内規基準」という。)を定め、本件条例一三条一項一号にいう「著しく青少年の性的感情を刺激し、」とは、「ア 人の肉体の全部又は一部を劣情的に表現したもの イ 性行為又はわいせつ行為を露骨に表現し、又は容易に連想させるもの ウ 一八歳以上の者を対象とした性典もの エ 変態的な性欲による行為を表現したもの オ いわゆるストリップショー又はヌードショーにあたるもの」として、その内容を相当程度具体化して、実際の運用はその基準によっていること、右内規基準は一般に公表され、一般人もこれを知り得ることができるものであることが認められるから、本件条例による表現の自由に対する萎縮的効果の発生のおそれというのも認めることはできない。」に改める。

五  原判決二五枚目裏五行目末尾から次行の「。未施行」を削除する。

六  原判決二七枚目表一〇行目の次に

「6 条約違反の主張について

控訴人は、本件条例は条約に違反する旨主張するが、右条約も、未成熟な青少年の健全な育成に有害である図書類を全く無視して、青少年にあらゆる情報を受ける自由を保障することまで規定したものではなく、また、それをすべて親権者等に委ね、いかなる事態に至ろうとも締約国が規制することを禁止したものと解釈することができないことは、同条約が、その前文において、児童に対する特別な保護を与えることの必要性を宣言した一九二四年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び一九五九年一一月二〇日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言等を掲げ、右児童の権利に関する宣言を踏まえて、児童は身体的及び精神的に未熟であるため、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とすることに留意すべきことを謳い、一三条一項において、「児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」としつつ、同条二項において、「1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a) 他の者の権利又は信用の尊重 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」と規定していることからも明らかであり、また、右一三条二項但書にいう「法律」は、国会により制定される法律のみを指すものではなく、法律の範囲内において地方自治体の議会により制定される条例も含まれると解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。」を加える。

七  原判決三一枚目裏三行目の次に「また、控訴人は、右乙第二号証の一及び二の各審議会議事録は議事録としての様式に欠け、記載内容にも誤りがあり、また、公文書としての形式さえ備えていない解析写真集を資料として扱っていること等からすると、本件フロッピーディスクについて十分な審議がなされたとはいえない旨主張するが、議事録の様式について控訴人主張の形式的記載がないからといって、議事が十分になされなかったとはいえず、また、弁論の全趣旨によれば、控訴人主張の記載内容の誤りというのは、被控訴人主張のとおり、審議会の会長代行の発言を会長と記載したものに過ぎないこと、審議会の資料に提出された写真集は宮崎県警察本部防犯少年課作成のものであることが認められるから、控訴人主張の事由をもって本件フロッピーディスクについて十分な審議がなされなかったものということはできず、他に、審議会における本件フロッピーディスクの審議について公正を疑わしめることを窺わせる証拠はない。」を加える。

第四  結語

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鐘尾彰文 裁判官海保寛 裁判官横田信之)

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